選択公理で前の項に依存する点列をつくる方法
選択公理が積集合が空でないことじゃなくて、選択関数の公理だと思ってるならこの記事は自明なのだ
出てきた集合の積をとっても選択公理が使えない
$(A_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $A_\lambda\ne\empty$ をみたすなら、$(a_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\in\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_\lambda$ が存在するのだ
しかし、適当に存在から写像や族を作れると思っていると足下をすくわれることがあるのだ。具体的には「出てきた集合は空でないから直積をとれば選択公理が使える。証明できるから行間にしよう」って雑に考えてると間違うのだ
例えば、次のような証明があったとするのだ
対偶、すなわち「$X:$ 距離空間が有界でなければ $X$ は点列コンパクトでない」ことを示せばいいのだ
まず、適当に $x_1\in X$ をとるのだ
つぎに、$\gdef\b#1#2{\operatorname{B}_#1(#2)}\b 1{x_1}\coloneqq\{x\in X\mid d(x,x_1)< 1\}$ をとると、$X\setminus\b 1{x_1}\ne\empty$ なのだ
$X\setminus\b 1{x_1}=\empty$ すなわち $X=\b 1{x_1}$ とすると $X:$ 有界となって矛盾なのだ
よって $x_2\in X\setminus\b 1{x_1}$ がとれるのだ
さらに同様にして $X\setminus(\b 1{x_1}\cup\b 1{x_2}))\ne\empty$ より $x_3\in X\setminus(\b 1{x_1}\cup\b 1{x_2})$ をとるのだ
するとどんどん $x_n\in X\setminus\displaystyle\bigcup_{k=0}^{n-1}\b 1{x_k}$ がとれるのだ
このようにして選択公理より $(x_n)_{n\in\N}\sub X$ を定めると、$n\ne m $ で $d(x_n,x_m)\geq 1$ よりこの数列は収束しないのだ
よって $X$ は点列コンパクトにならないのだ
さて、選択できるんだから帰納法で点がとれたら点列になるでしょ、って漠然と思ってれば証明できそうな気がするけど、「選択公理を適用する集合族は何か?」を考えだすとどうにも上の証明が怪しく見えてくるのだ
$x_n\in X\setminus\displaystyle\bigcup_{k=0}^{n-1}\b 1{x_k}$ がとりたいからといって選択公理を $\bigl(A_n\coloneqq X\setminus\displaystyle\bigcup_{k=0}^{n-1}\b 1{x_k}\bigr)_{n\in\N}$ に適用するのは定義が循環してるからダメなのだ
かといって $\bigl(A_n\coloneqq X\bigr)_{n\in\N}$ に適用したところでとれた数列は $x_n\in X$ がわかるだけで $d(x_n,x_m)\geq 1$ が言えなくなっちゃうのだ
選択関数を使おう
しかし、少し見方を変えれば上の証明は選択公理で証明できるのだ。具体的には
$\empty\notin A$ な集合族 $A$ に対して、選択関数 $f: A\to\bigcup A$ が存在して、これは $a\in A$ に対して $f(a)\in a$ なのだ
集合族 $(a)_{a\in A}$ を考えると、$(x_a)_{a\in A}\in\displaystyle\prod_{a\in A} a$ がとれるから、$f(a)=x_a$ とすればおしまいなのだ
を使って、べき集合 $2^X$ から選択関数 $f: 2^X\setminus\{\empty\}\to X$ をとるのだ
そして $x_0\coloneqq f(X),\ x_n\coloneqq f(X\setminus\displaystyle\bigcup_{k=0}^{n-1}\b 1{x_k})$ と再帰的に定義すれば求まるのだ
この証明の本質は 「全ての点 $x_n$ を $X$ からとってくること」にかかってて、点が取れるから点列がとれる、というのは単純に再帰的定義でしかないのだ
だからこれが点列じゃなくて有向点列だったり、再帰的定義が使えない集合だったら証明できない場合があるのだ
補足: $X_n$ がめちゃめちゃに動き回るとき
全体集合 $X$ がわかっていないときでも、実際は全体集合がとれるのだ
最初に集合 $X_\empty$ をつかって点 $x_0$ をとり、今までの点から集合 $X_{x_0,x_1,\ldots,x_n}$ を再帰的に決め、そこから $x_{n+1}$ をとろう、という時にも選択公理は使えるのだ
なぜなら、$X_0=X_\empty,\ X_n\coloneqq\displaystyle\bigcup_{(x_k)_{k=0}^{n-1}\in\prod_{k=0}^{n-1}X_n}X_{x_0,\ldots,x_{n-1}}$ とおいて $X=\displaystyle\bigcup_{n\in\N}X_n$ と置けば全体集合がとれるからなのだ
それでは、よき選択公理ライフを、なのだ